シュードラ拍手お礼小話
「春夏秋冬・とある双子編」
<春>
兄 「また冬が終わり新たな春がくる。季節っていうのは際限無い絶望のサイクルのようだねぇ。やあ、ようこそ、深淵の螺旋階段へ」
弟 「ではなく、拍手ありがとうございますだろう。春からブラック全開はよせ」
兄 「春は景気の良い季節だと言うのかい?まあ、どっかの奴隷は嬉しそうに庭の花に貪り付いて、また庭師と格闘していたけれど」
弟 「食事は用意しているのに、何故ああも動物のような癖が抜けないんだ!躾けか?僕の躾けが悪いのか!?」
兄 「犬は所詮、畜生だって事さぁ。もうちょっと鞭打って拷問にでもかけて調教しなきゃ。と言う事で、僕からとりあげた犬の玩具と鞭を返してよ。特注で、次に出来上がるまで時間がかかるらしいんだよねぇ」
弟 「・・・躾け云々の前に教育に悪いリリスから距離を取らせる方が必要かもしれない。奴を犬扱いするのは止めてくれ。僕が奴を一生懸命、躾けしてるの知ってるだろう」
兄 「貴族っていうのは趣味も幅広いものだけれど、ゴセルバは物好きな方に入るだろうねぇ。我が弟ながら感心するよ。あれを人間にしようなんて」
弟 「何も犬の状態から育てようとしているわけじゃ、いや、まあ、必要な教育さえしたら強盗から足を洗って、清く正しい騎士にだってなれるはずだ」
兄 「不文律として、貴族以外は騎士にはなれないと思うけどねぇ。文官が武官になるのすら難しいっていうのにさぁ。それ以前のペットを騎士に・・・アレが騎士に?・・・それは面白いかもしれない」
弟 「ナルナは少年騎士になりたての僕らより更に幼いんだ。ちゃんと出来るはずさ。いや、僕が必ず人として騎士として立派に育ててみせる。そうじゃないと僕の未来予想図が崩れるんだよ」
兄 「窓の外を見てみるが良いよ、ナルナが花にとまった蝶に興味を示してる」
弟 「ほらな、ああやって風景を観賞するだけの感性は備わってきてるじゃないか。毎晩ベットに縛り付けて本や詩を読んで聞かせたりしている僕の努力がこうしてコツコツと」
兄 「あ、捕まえて口に放り込んだ」
弟 「ナルナーーーーーー!?たった今、口に入れた物をペッしなさい!!」
<夏>
兄 「凶悪な悪鬼を好んで望むこの季節にこそ、人の本性は現れる。やはり誰もが暗い喜びを欲しがっているんだと思わないかい、ゴセルバ」
弟 「思わない。鬱陶しいから黙ってくれリリス。すみません、拍手ありがとうございます」
兄 「百鬼夜行のパレードに参加したいんだけど、何処でやっているか知らないかい」
弟 「そんなものはパレードと言わない」
兄 「100本のロウソクを怪談一話ごとに吹き消していくと最後に悪夢が起きるのだそうな。悪霊厄神雨あられと今夜にでも召喚してみないかい」
弟 「二人でどれだけ怪談しなければいけないんだ。そしてそんなものは呼び出したくない。却下だ」
兄 「仕方ない。毎晩一話ずつナルナの耳元で僕が怪談を語るしかないようだねぇ」
弟 「お前は何がしたいんだ」
兄 「怯えて夜中にトイレ行けなくなったら笑えるじゃないか。愉快過ぎて涙がポロリしてしまうやもしれないよ」
弟 「そして夜中に起こされるのは俺。幼い頃に恐怖心なんて植え付けるものじゃない。物の正否も判断出来ない内に、変なトラウマを残したらどうしてくれる」
兄 「笑う」
弟 「消えてくれ」
兄 「心からゾクゾクする怪談っていうのを聞きたいのだよ。身の危険を感じる何か、痛みや苦痛をぶつけられるスリル、血臭や腐臭、絶望に歪んだ顔」
弟 「いや、本気で消えてくれ」
兄 「ということで、今週末のパーティはそういう趣旨でするよう手配はしてあるので、とびっきりのやつを考えておくんだね。ナルナには何も期待していないが、ひとまず怪談話しの意義と趣旨だけでも教育しておかないと話を理解しない恐れがあるから」
弟 「あいつにはパーティドレスが無いので参加は出来ません。魔女も現れないのでカボチャの馬車もガラスの靴も無しです。12時まで?却下、却下」
兄 「なんだい、君はケチかい?ベランダの所に鎖で繋いでおけば悪さしようもないんだからいいじゃないか。きょうびナルナだってトイレトレーニングは修了してるわけだしぃ」
弟 「あくまでペット扱いか」
<秋>
兄 「血と炎を思い浮かべる色合いの季節には逢魔が時と呟きたくなる。奴隷や貧民の凍える季節への絶望と悲鳴と嘆きが一層心地良い季節だねぇ」
弟 「拍手感謝致します。貴方の気持ちや一言が僕の人生の支え、希望、糧となる」
兄 「家の一角にこっそりと穴が掘り返されている後があるんだけど何か知りたいかい?知りたいよねぇ」
弟 「一層健勝、ご武運をお祈り申し上げます。貴方の今日という日が良き日であるよう」
兄 「残飯が大量に埋まっていたんだよ。いつから貯め込んでいたんだか、あの駄犬は冬にあれを食す気か、脱走のための糧とする気だったのか」
弟 「ナルナァー!?ちょっとこっち来いぃぃ!!」
兄 「無視しようが僕の話は続くのだと分かってくれた所で、穴の中の物は消却して奴の大嫌いな本で満たし埋め直しておいたよ。ついでにナルナなら来ないと思うがねぇ」
弟 「リリス、お前はまたナルナに何かしたのか」
兄 「庭の木に縛り付けた上に物干し竿に袖を通させて十字固めにしておいて、両側の乾いた洗濯物の綴りから火をつけて火炙りごっこをしただけさ。火をつけた後に飽きたから戻ってきたんだけどねぇ」
弟 「うおわああああぁぁぁぁーーーーーー・・・・・・・!!!!」
兄 「おや・・・・・・・全速力だねぇ。今回はこれで終わりかい?」
<冬>
兄 「寒い、冷たい、飢えとくれば死を興じるに相応しい。全ての終わりと破壊、枯れ、別れに命を強く感じる。ああ、生きとし生ける散っていく弱く潰れる音の渦。冬は良いねぇ」
弟 「ナルナは何処だ」
兄 「おや、今回は挨拶しないのかい?拍手をいただいたのに礼儀を欠くとは何気に珍しいじゃないのかい?ここは兄として僕が言っておくべきかい?しないけど」
弟 「言え、まずナルナは何処だ」
兄 「秋に大火傷したのを根に持つんだねぇ。一応知らせておこうじゃないか、屋根で昼寝していたのを見たってね」
弟 「失礼致しました。拍手ありがとうございます。もう、心からありがとうございます」
兄 「前から思っていたんだけどねぇ、ゴセルバは少し束縛やら管理が過多ではないかと。少しぐらい放任しないと何も出来ない子に育つだろうと忠告しておくよ」
弟 「お前みたいなのを双子に持ったら過多にならざるおえんだろうがあああああ!!!」
兄 「あんなオモチャが近くだろうが遠くだろうが、あったら遊ばずにはいられないけどねぇ」
弟 「お前はナルナでいつまで遊ぶ気だ」
兄 「摩耗するまで」
弟 「・・・・・屋根で昼寝していると言ったか」
兄 「言ったねぇ」
弟 「・・・・・おかしい。季節は冬だぞ。こんな寒い日にわざわざ風通しの良い外の、しかも屋根にナルナだとはいえ好んでいくなんておかしい」
兄 「おかしいねぇ。もはや奴隷が貴族の屋敷の上で眠れている辺りは語り草なんじゃないかとみるねぇ」
弟 「・・・・・見てくる」
兄 「別に今回は心配いらないよ。朝から屋根の尖塔に服を突き刺して足に重しを繋いでいるだけだから。軽く気絶はしているけど死にはしないわけだし、遅れても問題は」
弟 「うわあああん!!僕もう嫌だ、こんな兄ぃぃ!?」
〜珍しくあとがき〜
ねじれのイチも3周年。なんと早いこと、こないだ2周年記念したような気がするのにシュードラが終了してカーストシリーズも一応は完了です。元のストーリー捻じ曲げたパロディを先に世へ出すという。
遍歴はともかくカースト制度は未だにどこぞの国で根付いていて、マジありえねえと思うのは日本人だからでしょうか。他人を気にして自分を優位に立たせていないと気がすまないんですね、人間の本質。