城下町の歩き方





 国の中心地であるこの町はおおまかに分けて6つの区域がある。


 1つは町の真ん中に位置する城。ここはいわずもがな国王陛下のおわす御所。各地域は特性が強く国王は町だけでなく国中を支配されていらっしゃるので町を中心に語るのはおこがましいが、この城の区域での権力者、又は支配者の名実は国王陛下にあらせられるだろう。


 通常は。


 まだ世代交代も戴冠式の予定も無く、長らく海外に遊学されていらした王太子がご帰還されてからというもの、名はともかく実権はかの王子に移ったと言っても良い。第二王位継承者である姫君が平民と駆け落ちしたのをきっかけに、その王位を継ぐにふさわしい血筋が第三位からは末広がりとなり過ぎるため、王子の時期戴冠が確実なものとなったためだ。


 更にこの王子、国王、国王妃を始め貴族を困惑させる程の変わり種らしく、カリスマとその知性と武力によって国のしきたりをまったく無視したやり口で政治に触れるのだという。それが害にしてもかの次期国王に逆らえる者は国王とて出来ないのだという。


 この国、終わったな。










 だがその王子にも自由にならない相手というのは、やはりいるらしい。


 町の向かって南東は貴族街と呼ばれる煌びやかなクシャトリヤの屋敷が広がっている。その中でも王の第一の側近と呼べる大臣閣下、彼に逆らう者は表だっては多くない。貴族の模範と呼べる国の礎の1つとなる彼、は王子の枷にはならない。


 ただしその末の娘は惚れた弱みか、おおいに王子の意見を是から否にも動かすらしい。他の貴族達からも呼び声は高く、一方には敵意と悪意を、また一方からは信と憧憬を持たれ敵も味方も多いようだ。


 若くして女だてらに政治の席を持ち、人の幸せを願い手広く奴隷にまで救済の手を広げている女神の如き淑女だという。この女性も人と違う視点を持つ方で、スラムの孤児院で親のいない子を手ずから面倒を見ながら生活しているらしい。


 どんなお嬢様だ。










 そのお嬢様の暮らすスラムは無法地帯であり、かっことしたまとまりは無いに等しい。ただ1つのルールと組織があるとすれば、それはこの国の転覆を狙う過激派テロリストが一部にいるところだろう。


 先日も、とある情報先から仕入れたのだが謎の町の動乱騒ぎにはこの奴隷達の動きがあったのではないかという説がある。


 町の北縁付近の貧民街を越えた辺りがそれで、迷い込んだらモンスターの如き飢えた奴隷達に食い殺されるという事もあるらしい。お嬢様がいられる場所ではけして無いはずなのだが・・・。


 町から脱出して山で暮らしていた方がまだ生きて行けそうだと思うのだが、人としての因果を持たない奴隷も、わざわざ新境地を開拓するまでの気力が無いらしい。いや、1人1人に聞いた事が無いしコミュニケーションが図れない者も多いため事実は堅く不明である。


 不確かな情報がそういえばもう1つ。時折、爆弾を使ったような爆裂音や破壊後が最近ではあるのだという。噂によるとその破壊後は爆弾というよりも何かとてつもない怪力が瓦礫を整理したかのように変に整備されていたりするとのこと。


 不思議だ。一体スラムで何が起こっているんだ。










 そのスラムよりもマシな内側の区域は貧民街、またの名を裏町と呼ばれる怪しい場所となっている。更に詳しくは北西を色街、北東を闇街という通称で分けることが出来る。


 この色街というのはその名の通りいかがわしい店が建ち並び、博打、人身売買など不道徳的な遊びに満ちた場所だ。まずもって旅人の半分はこの区域を好む。裏町とはいえ、客商売を中心とするため雰囲気も軽快で一般人がよく自ら迷い込むそうな。


 それでも昔は誰もが安全を保障されたものでもなかったが、近年はヤクザものが大人しく強盗、死傷騒ぎもほぼ無し。安穏な様子。かと言いここで酒を呑み、女に酔って事件を起こそうものなら色街の有力者に叩かれるという。ここで抑えておきたいのは、国の常識は裏町の常識ではないというもの。他の町の色街とは色々と様子が違う特徴的な場所になりつつあるため、同じノリでいくと身を滅ぼす。


 この色街では無法に近しい裏町に暗黙の規則を敷いているのだ。これを組み立てたのはとあるまだ若いゴロツキらしいのだが、めっぽう喧嘩に強く頭も回るらしい。色街では頼りにされているお山の大将。しかも驚くべきは件の駆け落ちした姫君のお相手がこのゴロツキだというから恐ろしい下克上。いや、嵐の種。


 人気も高く、ここでの王者と言っても良い。つか、この世代こんなのばっかだな。










 逆側の闇街は裏町と言って想像されやすい犯罪の温床そのものの場所で、ここは貧民街と言っても流れ者が3割を占める。


 一般人が足を踏み入れる事はまず無い。


 潜入するには危険が高いので謎も多いが、ここは色街と違い統一は不可能だろう。代わりに悪の立役者たる3大ヤクザがいる。目をつけられれば闇街を抜けようともただではすまないため、何かあれば色街に逃げるに限る。逆はけしてお勧めできないが。


 同じ裏町でありながら性質も違い昔から対立の激しい西東のため籠城するには向いてるとのことだ。ただし何故かごく最近になって色街に闇街からの訪問者が増加傾向にあるため油断出来なくなっている。


 まあ、闇街は行かないに限る。










 残るは平民街になるが、これは南西に位置する。城下という名にふさわしく活気のある立派なたたずまいと歴史を感じる造りが芸術的だ。


 ここには特に目立った人物はいないし物もない。至って普通の住宅街だ。


 あまりに他が濃すぎて普通に城下の街だなというコメントしかできないし、本当にただ人が住んでいる感じだ。店はさすがに色々とあるのだが、それを言うと他の区域にも散らばっているため何とも言えない。










 これらがこの国の城を抱いた町の風情と現状である。


 注意書きに従って安全な旅と余計な事件の回避に役立てて欲しい。


 なお、この説明書を読んだ後は速やかに燃やし、けして作者が分からないように内密に・・・。



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