ムカシバナシ
メイドの少女は恋をした。彼女の主が敵対する貴族に仕える使用人に。
主は町の往来で敵対する貴族と顔を合わせてしまう。付き人には恋する彼が。少女を不当に罵り乱暴しようとする貴族。それを庇った彼は己の主人に切り殺された。
少女は悲しみのあまり泣き続け、仕事をクビにされる。彼の霊は常に少女の傍にいるが、何もできず絶望した。
少年の前に死神が現れる。黄泉に誘導しようとする死神に少年は「もう1度少女に合わねば成仏できない」と言う。すると、死神は少年を生き返らせてしまった。
生き返った少年に町中が「化物」と襲い掛かってきた。命からがら少年は愛しい少女を見つけ、再会する。少女は信じられない想いで少年の名を呼び、駆け寄りあった。その瞬間、少年の主だった貴族が再び少年の首を刎ねた。首が転がり、少女の足元に少年の首が辿りつく。今度こそ少女は壊れた。
少女が魔法を使って生き返らせたのだと、彼女は魔女裁判にかけられ、彼の首と共に火あぶりの刑に処せられた。少女は首と共に焼け死んだ。
人形を手にした語り部は肩をすくめた。
「どうだい?悲しいお話だろう?」
「酷いな」
「そうかい?昔はよくあったんだよ。ああ、今も大して変わらないか」
「いや、あんたがさ」
「?」
観客は語り部の手に持った人形を指した。
「その人形、首がもげた」
語る最中に語り部が落とした首を観客は拾った。
「はっはっは、ただの古びた人形さ」
「おい、その手はなんだ。捨てる気か?」
ゴミ箱の上に手を伸ばした語り部を、観客が止める。
「ボロだからね。首のない人形なんて使えないから、処分しなきゃ」
「女の子の人形は?」
反対の手に持たれた人形に注目が集まる。
「どっかの誰かさんに譲るよ。彼女にでもやりたまえよ」
「だったらそっちもくれよ」
語り部は呆れたように持ち上げる。
「首のもげた汚い人形をかい?」
「頭は繋げとく」
「捨てちまいなよ。この2体じゃ、贈り物としちゃアンバランスだ。釣り合わんよ」
人形を受け取った観客は2体を隣り合わせた。
「お互いが幸せならいいだろ。アンバランスでもな」
「お人良しだねえ。じゃあ、お幸せに。そうそう、今度は彼女を壊さないよう気をつけたまえよ」
観客は語り部に背を向けた。
「ああ、次は間抜けな化物にはならないさ。死神さん」
語り部は薄く笑って、観客を見送った。
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