戦う白雪最前線
              〜鏡の精は見た〜




 ある国に住む白雪はそれは美しい姫でしたが、城を脱走しては城下町で遊び回り、スラムに行っては金目の物をばらまき、人買いの元では子供を買い占めるなどと国庫を圧迫するかなりの問題児でした。


 このままではと思った王妃が国宝である魔法の鏡に育児相談を持ちかけたところ、


鏡の精「破産したくなかったら殺すしかないでしょ。さもなきゃ間違いなく災いをもたらすね」


王妃 「そんな直接的な解決方法しか思いつかんとは、なんて無能な国宝なんだい!もっと考えて喋りな!!」


 怒れる王妃は感情のまま鏡を叩き割り、それが国宝だったことを思い出してそっと自分のタンスに放り込んでおきました。


 なにはともあれ、あれは真実を述べる鏡。忌まわしい者として娘が歴史に残るぐらいならと金持ちにありがちな理不尽なプライドでもって姫の暗殺計画をたてました。


 しかし、貧民は姫に買収された者ばかり。それに気づかず王妃が依頼した殺し屋は子供の頃、姫によって人買いから救われ自由を手にした男でした。


 姫の部屋に忍び込んだ暗殺者は姫にかしずきチクリ、もとい密告します。


暗殺者「かくかくしかじか、という訳で町の奴らが用意した森小屋に匿いに来た。さっさと城を出る用意をしてくれ」


白雪姫「何がかくかくしかじかだ。ちゃんと説明しなけりゃ行くわけないだろ。と言うか最近町で見かけんと思ったらお前そんな仕事に手を出してたのか、嘆かわしい」


暗殺者「・・・俺の事はひとまず忘れ去るとして・・・」


白雪姫「後で腹割って喋るからな。このままですむと思うなよ」


 とりあえずモゴモゴ言い訳をする暗殺者を放置し、白雪姫は王妃の思惑を聞き出しました。


暗殺者「だが町の連中は税金ばかり取って贅沢してる連中なんかより、姫に心を置いている。さあ、森小屋までは俺が手引きする。最低限の物だけ早くまとめて逃げるんだ」


 そんなこんなで白雪は金になりそうな上等なシーツを羽織り、ベット脇に隠し置かれている武器を持ち、暗殺者にいつも使っている脱走ルートを案内しながら悠々と森小屋に隠れ移りました。


 もちろん上等なシーツは生活費に換金されました。


 姫が死んだ証拠にと内臓を持ち帰るよう命令されていた暗殺者は、無縁仏として捨てられているちょっと腐った死体から心臓を取り出し袋に詰めて王妃に献上しておきました。


王妃 「姫の死は無駄にはしないよ。私の中で生き続けるんだからね」


 王妃は献上された無縁仏の心臓をミディアムにして焼いて食べました。次の日にお腹を壊していたのは本人だけの秘密でしょう。


 姫の葬儀は死体こそありませんが国を挙げて行われ、城は数日喪に服しました。が、姫を慕っていたはずの民はいつも通りで悲しむ様子が1oも感じられません。


 いぶかしった王妃はいかなものかと割った鏡を貼っつけて真実を知ります。


王妃 「よくも私に猥褻罪で町娘達に殴り殺され死んだ厳つくも汗くさいおっさんなんかの心臓を食わせてくれたわね、あのスカシ面した殺し屋が、目に物みせてくれるわっ!?」


鏡の精「一番重要なのはそこなんだ・・・っていうか自業自得だし逆恨みなんじゃ」


 余計なことばかり口にする鏡は再び王妃の一撃で叩き割られました。


 こうなったら仕方なしと王妃は姫のいる森に軍を差し向けます。大義名分は国家転覆を謀る謀反人で、白雪姫を騙る賊の始末。


 これを知った姫を慕う町の者達の内、情報の早い7人が森に駆けつけるものの居場所をすぐに掴める道具を持つ王妃相手に何処へどうやって逃げたものかと争論となり策がまとまりません。


 目を瞑り黙っていた姫は静かに目を開けて立ち上がり、得物である薙刀をかかげて椅子に片足を乗せました。


白雪姫「絶対王政で一部の特権階級だけが富と権力を振りかざす世に革命を起こす時が来た!想いを同じくして不満を持つ者は共に剣を持て。国崩しだ!行くぞ野郎共!?」


 姫、いや彼女の戦いぶりは鬼神の如し、一騎当千とはまさにこの事と後に謳われる。一日にして城下町まで上り詰めた白雪は町人達を引き連れて一両日にて城を完全占拠しました。


 勝因は、白雪が町も城も森も庭のように知り尽くす地の利を持ち、民の言葉に耳を傾ける人徳を手にし、無法地帯を無装備で遊び回っても無事でいられるだけの強者であるという類い希な勇将の素質を持っていたことにあります。


 こうして国王一家は権力を失い白雪は国の改革者、英雄として祀られるのですが、堅苦しい名を嫌いソッと旅に出てしまうのでした。


 ただ、かつて暗殺者として王妃に雇われた男を引きずって。



白雪 「あの不良商売から足を洗うには夜逃げが一番手っ取り早いからな。その辺でバイトしながら面白いことでも探すか。さて何処に向かうかな」


男  「次は鬼でも退治するつもりか、このアマ・・・・・」





鏡の精「ちゃんちゃん」



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