福は知らぬが鬼は内に
〜鬼ヶ島にて太郎なく〜
松の木が生える砂浜であぐらをかき海を眺めながら貧しそうな漁師は、隣で三角座りで海を眺める美女に言いました。
漁師 「なんで俺が連れてこられてんの・・・?」
美女 「わからん」
あっさりと答える美女こと白雪と漁師は再び黙し、遠い目で海を眺めました。重税から解放された国民と祝杯を上げて酒を呑んで浮かれたところまでは覚えていましたが、そこから2人共記憶があいまいでした。
漁師 「お連れの男は一体何処に・・・?」
白雪 「うむ。ぶっちゃけわからん」
とりあえず悩むより行動であろうと判断して漁師は情報収集をしようと提案しました。
漁師と白雪は右の浜と左の浜に別れて人を捜しました。そこで漁師はカメを虐める子供達を見つけ注意したところ、ただで解放するのを渋ったので子供達に拳骨をくれてカメを助けました。
亀は言いました。
カメ 「お母ちゃんとはぐれただ」
カメが後ろから付いてくるので仕方なくそのまま漁師が元の場所に戻ると白雪は自分よりも大きな巨大亀の上に乗っていました。
白雪 「食料」
小カメ「お母ーちゃーん!!?」
おもむろに薙刀を振り上げる白雪を慌てて漁師は止めます。母親は見つけられたようで迷子騒ぎは即座に解決です。
大カメ「色々言いたいことはあるんですが子供を助けていただいてありがとうございます。お礼に竜宮城にご招待を」
漁師 「悪いけど家に帰りたいから気持ちだけでいいよ」
断る漁師に大カメは食い下がります。しかし、帰るための路銀ならともかく寄り道はいりません。
白雪 「帰るにしろ別の国へ旅するにしろ船賃が欲しい。おい、カメ。何か儲け話はないか」
カメが言うには、鬼ヶ島に近頃化け物が出現したそうで、退治した者には賞金が出るのだと言います。
漁師 「カメが何故そんなことを」
そんな謎は適当に流され話は続きます。漁師は海の男ですが鬼を相手にする戦士ではありません。
漁師 「そういう物騒な儲け話はちょっと・・・」
白雪 「よし、行くぞ」
でも白雪は国を2つも潰した一騎当千の猛将でした。問答無用でした。
その化け物を退治すべくカメに乗って2人は鬼ヶ島へ向かいました。漁師が十字を切って半泣きのままカメに揺られていたのは完全に無視です。だから問答無用ですってば。
島につくと岩ばかりの浜はとても静かです。洞窟のような島をどんどん進んで行くと不気味な声が聞こえ出しました。
声 「帰れぇ〜」
声 「来んじゃねぇ〜」
声 「1人にしてぇ〜」
それも気にせず進んでいく白雪を前に最後尾の漁師はカメに乗ったまま目頭を押さえました。
声がやみます。
白雪 「・・・来る」
言葉通り空を見上げると岩が振ってきました。慌てる漁師とカメでしたが白雪は武器で難なく岩を粉砕します。攻撃はすぐにやみます。そこで白雪は口元に親指を当ててしばし思案してからおもむろに岩壁に近づき何かをひっぺ返しました。
女の声「きゃはあっ!?」
そこには下半身がヘビの女が涙目で岩の横穴に隠れていたのです。ヘビ女の顔には白雪も漁師も見覚えがありました。
ヘビ女「うわあん、どうして静かにほっといてくれないのよ〜。あたしは海にも孤島にも生きる権利がない言うんかぁ!西の海では人魚姫が海に帰らないせいで理不尽にもお尋ね者にされるし、渡る世間は鬼ばかり!酷い、酷すぎぃるぅわぁぁぁ」
ぴーぴー泣き出すヘビ女の頭を漁師は撫でて宥めます。
漁師 「なんだ、あんた人間じゃなかったのか。てことはここに最近出現した化け物って」
ヘビ女「どうせあたしは化け物よぉ!どうせ海でも異端者って嫌われてたよぉ!魔女だよぉ!」
そうこうしている内に、魔女というヘビ女が何かの気配を読みとりピタリと泣きやみました。
ヘビ女「あかん、侍が島に大量に乗り込んで来た。この島はもう諦めよ」
あっさり島から逃げだろうとするヘビ女。しかし、この島は岩に囲まれていて一本道。守りが堅い要塞は逃げるのにも適しません。
白雪 「ならば私が全員海に叩き返して」
漁師 「それじゃ、俺達がおたずね者になるんじゃないか?」
白雪と漁師はしばし見つめ合い、白雪がいつになく可愛らしく上目遣いで口元に拳を当てました。
白雪 「顔を見られたら記憶が曖昧になるまでタコ殴りにするってことで」
そんな非道なと魔女とカメは思いましたが、漁師は真顔で言いました。
漁師 「ぬるいな」
漁師は魔女だというヘビ女に頼み、魔法で釣り糸と針と網を用意してもらうと即興に何かを作り、天井に砂袋と一緒に設置しました。
武装集団がその下に来ると、漁師は糸を引いて仕掛けを落とし、砂で目つぶし煙幕、仕掛けで行動封じ、彼らを踏み抜け入り口に猛ダッシュ。更に侍達の物と思われる舟に容赦なく穴を開けオールをへし折り、漁師達はカメにまたがり鬼ヶ島を無事脱出しました。
武装集団には地獄の無人島生活ご招待です。
漁師 「これだけ酷い目に遭えば、あえて俺達を見つけ出そうとも思わんだろ」
稼ぎ話が不意になり一行は仕方なく地道に船賃を稼ぎました。
ところで、ようやく船に乗れる日になった港で白雪達は村人からこんな噂を聞きました。
村人 「化け物を退治しに行ったお侍様達が何日も帰ってこんのよ。恐ろしいこっちゃぁ、食べられよったんじゃぁ」
そんな話に素知らぬ顔で漁師は船に乗り込みます。
漁師 「世の中どこも物騒だなぁ」
魔女 「お前が怖いわ」
白雪 「ところでこの船は何処に行くんだ?」
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