改方 5




 引っ越してくる前に我が家に住んでいた人は、何故こんなに主張の強いアロエを育てえたのであろうか。小さな庭から育ててもいないのに、1階の天井程の高さまで壁に潜り込むように這いながら伸びている。鉢植えはつい最近、完全にアロエの根っこに破壊されつくして消え去ってしまった。このドブ水路に影を作り笠となるレベル。とりあえず朝食にアロエが欠かせない。


 最近、職場の弁当にあらゆるアロエ料理を持っていったところ、色んな人が味見をしていきアロエが爆発的に流行。


 昔からアロエが豊作なせいでアロエ料理のレパトリーが物凄い事になってる我が家だ。レシピを教えて欲しいと頼まれて書き出してはいるが、一体何処まで書けば良いんだろうか。あんまり喜ばれるから言われるままに書き始めて3週間、僕はアロエレシピだけで本が出せてしまうのではないだろうか。女性の飽くなき料理への探究心は賞賛するところだけれど、教えた次の日に感想まで知らせてくれる勢いが凄くて腱鞘炎になりそうだ。アロエが好きだと思われているのか、作った物も皆さんからたくさん頂くし、昼ごはんがイコール、アロエになりつつある。家に帰ってもアロエが出てくるし、いっそ主食がアロエな気がしてきた。


 そういえば夜になると規則正しく何処でも気絶するように眠る方のイトコにも言われたっけ。『葛城家はアロエを啜る新手の妖怪か何かなの』と。あれがどういう意味なのか未だに考える事がある。今度の正月で顔を合わせた時に聞いてみようかと思う。


「まんまの意味だよ!!」


 金髪の農業少年が土の上に座って早めの夕食を取りながら木箸を向けてくる。なんと行儀の悪いやっちゃ。未だ帰らずに長期入院となったおじさんが見たら嘆かれるぞ。いつから息子は不良になったのかと。


「親に金髪にされてる息子に今更それして、もうなんかアレだろうが!糖尿病見つかった生活を再教育される親父から説教される事など1つとて無いわ!1週間で帰ってくるとか言ってたし」


 少年のお父上の怪我が長引いて、お袋さんまで看病疲れで1週間前に倒れてしまわれた。怪我が長引いたのが生活習慣病のせいらしく、なかなかの病気っぷりに生活習慣を矯正するための入院が必要なんだそうだ。お袋さんも看病疲れで倒れた時に調べたら同じ糖尿病というものが酷く、まあ揃って入院する事となったというわけだね。


 僕の父が何か景気よく少年を請け負ってきたみたいだ。元々父達は子供の頃からのご近所さんのようだし頼ってくれたらしい。まあ、1週間程度の食事の世話だけだそうで大した事もないしね。という事でお代わりまだあるけど、どうする?


「問題はその食事だよ!?なんで毎日毎日おっさん家には毎食一品必ずアロエが入ってんだよ!なんか可笑しいだろうが!?」


 アロエレシピを思い出すべく僕が毎日作っているからだよ。3食アロエが出てきて、ちょっと過剰摂取かなとも思うけど適当な走り書きだと変なレシピで作ってしまって困らせたらいけないだろう。もしかして下痢になってしまったのかい?だったら少し控えないと。


「なってねえよ!だからどんだけアロエに生活侵食されてんだって、まったく」



 ラジオを畑に持ち込んで鳴らしている少年が、ふとラジオを見下ろしてボリュームを上げる。


『では舞阪さんが改方を纏めているのではないのですか?代表でよく出られているようですが』


『私は内外部へのパイプ役を担っています。改方というのは一等に長官が存在します。ですが彼の補佐として副官という役割を担っているため表に出るタイプの雑事は私が伺っているのです』


『少しだけ自警団を作られた長官さんともお話させていただけないでしょうかー』


『申し訳ありませんが、長官と連絡が取りたい場合には改方でHPを開いてありますので掲示板かメールでお願いします。また、出来たばかりの自警団であるため生活や安全への被害、無用な混乱を避けるため他の改方への接触も私を通して頂くか、HPの方をご利用いただいています。代わりに私が出来るだけ応対するのでご協力願います』


『そうなんですかぁ。残念ですねぇ。では先日に暴走族を相手どって凄い乱闘をした凄腕の、えー、番頭という役柄だそうですが剣塚守彦さんに関して』


 突撃インタビュー的な何からしい。


 改方の副長官は堂々と質問を捌いていく。こういう治安に関心がある人間がいるというPRも町を守る1つの因子だ。段々とこうやって周知されて、悪いことをする前に躊躇う要因になれれば良い。少しは人が住みやすい町になって、きたと思いたい。今日もサイレンの音は響いている。










 女性陣のテーブルでアロエ尽くしの手料理を食べ終わったら、横からアロエティがコップに注がれる。女性らしいキュートなカップはハートで散りばめられている。食堂なのだけれど、食べる場所がここだけなので弁当組みもここで食事をするわけだが、食堂で配られるカレーを食べる男性陣の視線が冷たい。


 ところで中本女史、そんなに肌を撫で回されると困るやら恥ずかしいやら。


「やだ!こいつ本当に肌スベスベだし!20代とか言っても、ありえなーい!葛城が美容効果に良いとか言うから付近でアロエだけじゃなくてアロエ系の入浴剤まで売り切れ続出してるわよ。っていうか、何で男がそんなアロエ風呂とか毎日入ってるのよ!」


 まあ食べるばかりがアロエでもないので、風呂に入れると荒れた肌が整えられたり美容効果が高いらしいって伝えてみたりは確かにしたけれど。でもアロエ風呂は母がやってる事だから、別に入れ替えるような意味も無いし自然に使う事になっているわけだね。


「肌凄い綺麗よね、葛城君は」


「あ、あたしもアロエの入浴剤使ってるんだけどぉ、ちょっと効いてきたかなあ」


 手を取られて頬に手を持っていかれる。確かにスベスベだけれど以前を知らないから判らないよ。十分川崎さん綺麗だと思うよ。


「あんた絶対同姓から嫌われてたでしょ」


 中本女史が顔をしかめて身を引く。友人はそれなりに普通程度にはいると思うけれど、何故そこまで言われるんだろうか。確かに嫌われる時は徹底的なタイプらしいけれど。男性陣の視線が痛い。


 いや、しかし、今日はこの辺りで退散させていただくよ。名残惜しいけど早引きなんだ。その同姓の友人から頼まれごとを請け負ってたりするもんだからね。


 中本女史が通訳を口にすると周囲から声が上がる。


「「「えー」」」


 いや、実に男性陣からの視線が厳しい。ここまで連日こういう雰囲気なのは高校以来なんじゃなかろうか。










 まあ同姓の友人というのは中学の同級生なんだけれども。


 私立の学校は教室も綺麗だね。教室の教壇で浅田教諭が黒板を叩く。そこには手話と書かれている。これまた周りから女の子の歓迎してくれる声が迎え入れてくれた。男の子からは本日2度目のやや冷たい視線だ。いや、なんだか知っている顔もいるな。


「なんで改方のおっさんが」


 いつかの誘拐された中学の少年2人が口を開けて凝視している。改方という単語に教室が少しざわつく。隣に立っている浅田教諭まで僕を見て、やっぱり改方の一部かと呟く。やっぱりというのはどういう意味なんだ、浅田耕一。


「えー、静かに。この人はおっさんではない。俺の中学の頃の同級生だから、彼がおっさんだと俺までおっさんという事になってしまう。名前は葛城春先さんだ。今回手話の特別講師を引き受けてくれた」


 浅田教諭が、はいどうぞ的な笑顔を向けてくるが、なんの虐めだろうか。最低限の紹介ぐらいしてくれよ。


「悪ぃ、春先。俺も別に手話できないから。何言ってるのか分からん。今日は俺も生徒だから」


 笑顔のまま鬼畜な事を言う。中学の頃は主に筆談と口の動きとボディランゲージで友人関係を構成していた。手話を覚えてくれた友人もいるが、やはり普段から使わないので数は少ないんだな。


 まあそれでも口が利けるわけがないので俺は背中にぶら下げているザックから棒を引き抜いて木製版を向ける。中学生らが注目して、浅田教諭が音読した。


「『私は口がきけません』」


 次の板を出す。


「『止めなければ鉄拳制」


 おっと間違えた。


「って、なんかおかしなの見えた気がしたけど全員忘れるように。えー、煩い、騒ぐな。『手話が分かりますか?』まあ少しは事前に勉強したよなあ、みんな」


 机におかれたプリントを片手に興味津々の目がいくつも俺を見上げてくる。浅田教諭が生まれつき声帯が無いという俺の障害を軽く説明して、使う率が高そうな手話を中心に広めていく。まあ1回目だし軽く楽しめるように体験程度、かな。これが友人からの頼まれごとというわけだ。


 そんなに専門的にコアにやる事も無いのでプリントの内容を拾いつつ僕は手話と筆談で中学生らに話しかけていく。手話に拘る事はないし。喋れない人間とコミュニケーションを図ったっていう高揚感だけでも良いと思うんだ。それで喋れない相手に物怖じせずに相手をしてくれるようになるっていうだけでも嬉しいから。一番大切じゃん。


 おおむね好評を得たみたいで浅田教諭が生徒の背後で親指をおっ立てる。特別授業が終わっても周りに中学生達が集まっているので、玄関まで引き連れて校門まで来ることになる。一体、なんの集団なのかと奇異の目が他のクラスから向けられているね。主に明らかに部外者である僕が何者だろうっていう感じだ。どうやら手話にもしっかり興味を持ってくれた子もいるようで、覚えたての手話を確認するようにあっているかと聞いてくる。3回授業時間を担当するらしいから復習していてくれそうだ。


「次までに他にも覚えます!」


「葛城先生は何処に住んでるんですか?」


「改方をしてるって言ってたの本当?なんで原西達と知り合いなんですか?」


 返事を返してもまだ分からないだろうから笑顔で応える。活気があっていいね、中学校は。


「「「きゃー」」」


 間を割って浅田教諭が生徒と僕を分けて廊下をキョロキョロと見回して乾いたため息をつく。


「お前は相変わらず爽やかにムカつくなぁ」


 なんで責められているのか分からない。質問されても、なんだか不条理な事を言われても手話も出来ないし、木製版やらメールを打つ雰囲気でもないので黙って微笑むだけ。色んなコミュニケーション方法を昔から模索して、それなりに人と言葉を交わす事が出来るようになったけれど、大勢の中では僕の言葉はとても無力だ。


 だから個人的な最終伝達手段はこれに限る。


「あ痛っ。ちょ、痛!なんだよ、この」


 頬を捻り上げると浅田教諭の顔が面白かったのか、周囲で笑いが上がる。微笑みながら空気が険悪になり過ぎないように気を使いつつという高等技術だ。


 ザワザワと見送りを引き連れて到着した下駄箱の、すぐ向い側の建物の入り口、そこでふと知った顔を見つける。ボーっと手紙を見て心ここに在らずな女子高生だ。私立の翼中学は高校、大学まで敷地内だ。その手紙を読んでいる女子高生も、ザワザワとした人だかりの気配にこちらへ視線を向けた。青ざめている、様子がおかしいね。


 僕の姿を見て、泣きそうな顔に崩れて腕を力なく落とした。


「葛城さん!」


 僕が主に頼りにしている手話も出来ちゃう社交的なご婦人、田中花さんの家で何度も顔を合わせている。彼女がこの学校にいるという事も会話で聞いたような気がする。彼女の手に怪しげな物が見える。


 今子ちゃん、簡単な手話は出来るって言ってたよね。今から帰り?一緒に帰ろうか。


 怯えた顔が微かに輝いて何度も頷く。周囲を軽く僕は何気なく見回した。










 手紙が下駄箱に届いたのは初めてではなかった。何度か段階を踏んでエスカレート。物が入っていたり写真が入っている。物の内容も随分と乙女心を理解していない物だ。アダルトグッツを女子高生に送るなんて恋愛するつもりでこの子に近づいているという風には見えない。。


「学校にいるのとか、家からの帰り道の写真も入ってて。最初は友達の悪戯かなって思ったりもしてたんですけど、全然そんな雰囲気でもなくて怖くて」


 涙を流す今子ちゃんの頭を撫でて、今は泣かせてあげる。我慢をしていたんだね。可哀想に、身内や友達にはかえって相談し辛い内容だ。教えてくれて、ありがとう。大丈夫、僕や改方はもちろん、そこまではっきりしていれば警察だって動いてくれるさ。一人で悩む必要はもうないから一緒に闘おう。


 髪をすいて頭を撫でると少しくらいは安堵した顔で笑う。でもすぐに顔が曇った。


「あの、警察に言うんですか」


 ん。味方は多い方が有利かな。


 顔を再びふせって言葉を飲み込む今子ちゃん。まあこの年頃の子が考えそうな想いは僕にもまだ想像がつく。高校を卒業したのもまだ6年前程度だし。


 大事にしたくない?


「でも、怖いし、ちゃんとした方が、良いんですよね。だって助けて欲しいのに我が侭だし」


 そうだね。ちゃんとした方が良い。何かあってからでは遅いから。でも警官が柔軟に動いてくれるかどうかは別の話ではあるね。不安は当然だし保障も出来ない。心配している通り学校では注目されるかもしれないし、やっぱり誰だろうって噂はされるだろう。後で気が重くなっても仕方ないから言っておくけれど。


「ん・・・・・・はい」


 だからしょうがないじゃなくて選んでいいよ。


「え」


 さすがに作戦を練る上で僕1人では助けてあげられないけれど、改方なら少しは融通できる。それにすぐに解決できなくて相手が隠れてしまえば、ほとぼりが冷めてまた現れないとも限らない。警察は長期的には相手をしてくれないんだ。特にこの町は何かと忙しいからね。


 改方なら危険人物がいて、被害者がいれば、特定の場所を重点的に警戒するのは特別な事じゃないよ。工場地帯の見回りはいつも多いし、他にも相談があって例がいないわけじゃないんだ。安心して生活が出来るように改方に上手く話を通してみるよ。警察に連絡するのはもう少し必要になってから。今子ちゃんの高校生活をストーカー撃退生活にする事もないだろ?こういう方が改方は本領を発揮して効果もあるみたいだし、どうかな。


 胸の前で今子ちゃんは手を組んで僕を見上げる。大きな目と薄っすらと塗り伸ばされた上向きの睫毛を揺らして。


「葛城さんって根っからの王子様ですね」


 今子ちゃん・・・。










 次回の講義の内容や今日の講義について、久しぶりに会ったんだから飲みに行こうぜと話していたのに約束を反故にしたなと浅田から恨みのメールが届いていた。だから、すまないって言ったじゃないか。今子ちゃんの様子がおかしかったのは浅田も分かっていたようなので本当は怒っているわけではないんだろうが、今度わびを入れないといけないな。


 しかし、せっかく今子ちゃんの通っている学校に耕一が教諭でいるので今子ちゃんに許可を貰ってメールで事の成り行きを相談しておいた。学校全体で警戒するとなると、体制が何も整っていない上に何処で今子ちゃんのプライバシーが侵されるか分からない。それに学校での写真がある以上、教師側にストーカーがいないという確信が持てない。もちろん耕一は違うと信じているから相談するんだけれど。


『褒めても何も出ねえからな、春先。でもやっぱり警察に連絡した方がいいって。改方の事は俺も凄ぇ活躍聞いてんぜ?でもこれは知ってて何かあった時に責任問題ふっかけられるって。第一、親御さんとか相談した?春先の事だから抜かりねえと思うけどー』


 まあそこは。別に家族関係が複雑なお家では無いし、やっぱり家族へは肝を冷やすような事なんて特に連絡相談、後は意見だって聞かなきゃね。


『なんにしても俺は中学教師だぞ。高校に連絡するんじゃないなら、どうしろってんだ』


 それとなく気にかけてくれるだけで助かる。


『ん〜〜〜、貸し1個な』


 講師の件でチャラ、だろ?


 そんなやりとりもありぃの、改方での協力要請なんかも取りつつ、事は動いた。


 ひとまず目に見えて変化したのは、朝に今子ちゃんの家に迎えが現れる。


「田中さん、おっはよー。あたし改方、飛脚の町田桜。緊張してる?市中見回りと連絡が任務だし、こういう仕事前にもしたから任せて。学生特有の特殊任務だし」


「石川さおり、よろしく。解決するまでは必ずどっちかつくし、普段どおりしてて」


 同じ高校に先輩ではあるが2人の改方女子がいる事が判明したので協力を仰ぎ、共に登校する事となった。元から一緒に登校していた友人が1人いたので、それなりに人数が集まって動くため安全性は上がる。人目があるというのは一番大事だ。


 後は女の子だけじゃいざという時に怖いだろうし、同じ学校にまだ改方の少年も2人いる。それこそ市中見回りが今子ちゃんの通学時間と通学路をチェックポイントとして立つ事にもなっているし、見回り回数も増やす話になったそうだ。小学生の通学路や通学時間にもこれをやっているんだけど、おおむね好評で痴漢騒ぎを沈静化した実績もある。


 これで気づけばあちらも身を潜めるだろうし、気づかなければ尻尾が見えてくる。


 長引かせるのは得策とは言えないだろうけれど囮のように生活を脅かしてもリスクは変わらない。ストーカーの本質は好意だろうから、この警戒態勢を見て自分で行き過ぎたアプローチに気づければ。


 仕事前にスクーターにまたがったまま女子高生達の登校していく背後を見送った。なんにせよ、今のところはセンスの無い贈り物以外、ストーカーの本体は影も形も見当たらないみたいだね。






 田中の表札下のインターホンを鳴らして待っている時に今子ちゃんの声が少し距離を置いてかけられる。


「あ、葛城さん!」


 明るい目の声に安心する。ちょっと元気が戻ったのかな?


 一緒に帰ってきた少女達が僕に頭を下げて軽く挨拶してくれる。最近何度か顔も合わしているし、簡単な手話で挨拶すれば、同じように返してくれた。最近の若い子達はすぐ熱心に覚えてくれるねぇ。


「じゃあね、田中さん」


「ありがとうございましたー、受験勉強頑張ってくださいね」


「桜が特にね」


「あははは」


「今子も明日の小テスト忘れないようにね」


「分かってるぅ」


 和気藹々としているようで良かった。随分仲良くなったね。子供は友達を作るのが早いなぁ。


「葛城さんはお婆ちゃんに用事ですか。今日はまだディに行ってると思いますよ。お父さんやお母さんが仕事だし」


 じゃあ今日は家で1人って事になるんじゃないかな。


「あぁ、はい」


 少し雰囲気が暗くなる。そういう事ならお友達を引き止めたかったな。しかしあの子達は、そうか高校3年生なんだね。


「受験大変みたいで、私の事情に巻き込んで申し訳ないです・・・」


 感謝の気持ちを伝えてあげればいいよ。本当に無理ならちゃんと相談して調整するんだから、遠慮して一人で悩んじゃ駄目だよ。


「私、やっぱり警察に言えば良かったんでしょうか。改方で仕事でもないのに守ってもらったりして、私、騒がれたくないってだけの理由なのに」


 そう言われてしまうと、そもそも改方の意義がなくなってしまうかな。


「え」


 僕らは、仕事じゃないかもしれないけど、単純に町のみんなが笑顔になって欲しいって理由で集まってるんだよ。僕は家の中ですら自由自在に闊歩できなくなっても、なんの特にもならない改方に協力をして、あれだけ輝いている花さんを尊敬しているな。何か情報があれば助かるなって、途方も無い相談をしても迷惑そうになんて花さんはしないし、思っていないそうだよ。カッコいいね?


「あの、ごめんなさい。半分位分からなかったけど、なんとなく分かりました。ごめんなさいより有難うなんですよね。きっと」


 大正解、かな。


 とにかく一人で家の中にいるのも心配だから、なんだったらご家族が帰るまでいっそコンビニにでもいようか。夕食前だけどサンデー位なら奢って。


「そこの男!田中今子から離れろ!!」


 意気込みのある少年の声と、勢いよく今子ちゃんの前に飛び込む少年の影に軽く後ろに飛びのく。唸り声でもあげそうに睨み付けてくる高校生男児はカバンを盾に構えていた。


「な、何!?」


 今子ちゃんも軽く飛びのいて壁に背中を押し付ける。どうやら現れた少年は顔見知りのクラスメートではないらしい。


 おやおや、これはまた。



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