野球しようぜ 3




 野球部の朝練習は各自、好きなタイミングで始まる。


 5時。


「お前らさあ、一体、何時から来てるの?学校の門が開いたの今なんだけど、何処からいつも入ってんの?」


 鉄とエルドラが汗だくでグラウンドに背中合わせで座り込みながら、俺を見上げた。


「「4時に塀を乗り越えて」」


 何時に寝てるのかも聞いてみると、クラブが終わって帰ると速攻で寝支度が始まるようだ。この野球部の化物2人の感性が世間からズレていく理由が分かった気がした。





 投球された球がミットに吸い込まれる様に重い音を立てて収まった。それを3塁に素早く投げた鉄先輩の球をエルドラ先輩が何を受け止めたのかという様な重い音を立てて受け止める。マウンドから走り出したケオン先輩。エルドラ先輩は構わず1塁に向かって球を投げ、ケオン先輩が跳んで球をギリギリで受け止めた側から2塁に向かって投げつけ、そのまま地面に受身を取って倒れる。そこにマウンドを突っ切った鉄先輩が滑り込んで球を受け取り、キャッチャーの方へ投げるとエルドラ先輩が。


 横で突っ立っているノーディア君が呟いた。


「どんな高度な遊び方だよ」


 深々と眉根を寄せた俺は呻いていた。


「さすが先輩方。俺では到底届かない境地か。俺もやはりもっと修練を積まねば」


 時計の針はようやく6時。1年生はついていけません、先輩。





 ちらほらと他の生徒も見られ始めて人の気配がハッキリとする7時。


 俺は球を普通に投げ合っているノーディア君とジン君に向かって声をかけた。


「今年の1年生も熱心だねえ。アレ?鉄君とエルドラ君とケオン君は?物凄く非常識な時間から来てるはずだけど姿が見えないなあ」


「あ、オト部長だ。ちーっす。今日はちょっと夢中になり過ぎて7時過ぎたから先輩達急いで裏手に行ってるんだよ。いつもは6時45分位に済ませてるから」


「済ませる?」


 嫌な予感がしながら俺は1年生に続きを促すとジン君が答えてくれた。


「授業前に周囲へ悪臭を放ってはならないと気遣い、禊を済ませに行っているのです。後はあまり汗をかかない軽い練習に切り替えて俺達の練習を見てくださるだけですから」


「み、禊?」


 もはや予感が確信に変わりつつある。


「人通りの少ない裏手の水道で素っ裸で汗流してるんだよ」


「通報されるからね!?」


 俺は裏手に向かってダッシュした。部活停止になるだろうが、あの非常識達はあああ!!





 8時、野球部の練習を横目にノブちゃんと並んで登校。仲睦まじいけど彼氏彼女じゃないの。学校付近になるとノブちゃんは女言葉完全に隠すけど、ノブちゃんはオトメンなので私と結ばれることは精神的な同性愛になる。つまりノブちゃんは女友達のカテゴリーだったのよ。ずっと一緒にいてもらうためには恋人以外の方法で弛まぬ努力が必要になってくるわ。


 そのためには相好理解のために時間を共有して楽しい時間を過ごすのが大切。なのに野球部なんかにノブちゃんを取られるなんて私の高校生活計画が2年生にして頓挫よ。ちぃ、いまいましい。


 携帯が鳴って私は会話を中断して画面を開く。


『題名:ロボコンマガジンの内容で分からないとこがあるんだけど〜』


「あ、有川君だ。おお、確かにあそこは難しいよね。私も中山先生に質問しに行ったもの。口で説明されても分からないよね」


「なんで有川と本の貸し借りしてるの」


 ノブちゃんが警戒心を剥き出しにしてメールを覗いてくる。私はキラキラした目でノブちゃんを見上げてこの喜びを伝えるべく拳を握ったよ!


「有川君ロボットに興味があるんだよ!今ね、1つ組み立ててるらしくって、どうしても分からないところがあるから手伝って欲しいんだって。バイトが無い日にクラブ休むからって言うから、工具を取りに帰ってから、おうちの場所を確認しなきゃ」


「あいつが興味あるのは絶対に別だから止めなさい。後、人気の無い所で2人きりになったら全力で30mは距離をとって。いや、ドンくさいあんたじゃそれも不安だ。50mは離れて話しな。ああ、それでも追いつかれてる場面が容易に浮かぶ。もう姿が見えたら速攻で逃げてよ」


「それ、もはやメールが必要な距離だよね」


 マネージャー兼選手という前提で所属しているノブちゃんは朝練には行かない。って私が宣言している。ついでに言うと純粋に野球部の選手であるはずの有川君とバルリング君も朝練に姿を見せる事は無いんだって。


 何にせよノブちゃんとのこの貴重な朝だけは野球部から守りきってみせるわ。だって友達いないんだもん、ぼっちとか朝から欝で泣けてくる!!!




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